岡本クリニック日記

岡本クリニック メンタルケア室    岡本慶子 精神科医

「統合失調症がやってきた」ハウス加賀谷&松本キック(松本ハウス)を読んで

 ハウス加賀谷さんを知ったのは2010年頃。たまたまネットで、統合失調症での入院歴をオープンにして活動再開された様子や、幾人ものファンの好意的な書き込みを見た。昔出演されていたというテレビ番組は見たことがなかったけれど、とても心ひかれた。

 当時は精神医療分野ではまだ注目されていなかった。私の地元の保健センターの企画会議で、一般向けの精神保健啓発集会に良いゲストいないですかと問われて「こんな芸人さんがいるらしいんですけど・・・」と提案したら、あっさりスルーされた。

 そんな加賀谷さんの名前を、2013年春の日本統合失調症学会プログラムに見つけたときは嬉しかった。そして今回、出版された本を速攻で買った。すぐに売り切れたと聞く。

 一気に読んだ。「とうとうこんな本が出た・・」と嬉しくて胸が熱くなった。書評めいた言葉など、軽々と越えてしまう本だ。
 とにかく読んでほしい。どんな人にも読んでほしい。

私たちは病気にはなったけど、子どもになったわけじゃない

「私たちは病気にはなったけど、子どもになったわけじゃない」
昔、デイケアで患者さんに言われた言葉だ。自尊心を保つために、勇気をもって言いにくいことを言ってくれた人だ。

 リハビリプログラムの中には、子ども扱いの落とし穴がある。リラックスして楽しく参加していただけるようにとの意図であっても、毎週、毎日繰り返されれば、参加者はそれに合わせようとして子どもっぽいふるまいを身につけざるを得ないだろう。
 気づかないうちに自尊心を破壊してしまう。私たちは本当に気をつけなければならない。

どうやって病気をうけいれましたか

「どうやって病気をうけいれましたか」「病気になった自分をどう思いますか」
発病後比較的年月の浅いメンバーから他のメンバーにむかって、ときおり出される問いである。

それぞれから切実な、そして心あたたかいコメントが返される。
私はその重みに言葉もなく聞き入っている。

同世代・同性どうしの小グループ

 かんたん統合失調症教室の開始時には、数人ずつにグループ分けをする。

 同世代の人と交流したいという希望はとても多い。とりわけ10~20代の若い人、それから女性の場合は年齢を重ねても、その希望が多い。できるだけ近い世代同士になるように分ける。同性がよいという希望もしばしばなので、男女別のこともある。

 一般の施設でされているような、年齢性別にこだわらない交流の良さもある。
一方で、同世代でまたは同性で交流したいというニーズにこたえる場も必要だろう。
そのようなグループ分けがしやすいのも、いろんな医療機関から人が集まってくるメリットのひとつ。

3つのしんどさ

精神疾患をもつ人は、病気そのもののしんどさに加えて「分からないのしんどさ」と「ひとりぼっちのしんどさ」を抱える。
長くつきあう慢性疾患なのに、自分の病気にどう対応したらよいか分かりにくい。そして自分だけがこんな状況に陥ったかのような孤立感。

病気そのもののしんどさは、医学の進歩を待つことが必要かもしれない。
でもあとの二つは、工夫でもう少しなんとかなりそうだ。

外来患者さんの孤独

「統合失調症は軽症化して外来でフォローできる人が増えた」とよく言われる。
近頃の医療関係者の関心は重症者のケアに向くことが多く、それはもちろん大切だ。

しかし「軽症」と呼ばれ淡々と外来に通っている患者さんたちの孤独の深さを軽視してはならない。
グループで一人のメンバーが「死のうと思ったことがありますか」と問えば、みんな口々にその経験を語りだす、そんな思いを抱えておられるのだから・・・

症状の軽重と、抱えているつらさの軽重は、平行ではない。

みんなにもある、ここでは言える、実はよくあるらしいこと

統合失調症の疾患教育をグループで行う良さは多々あるが、
その最大のものは「人に言っても分かってもらえない、自分にだけおこった異常で得体のしれないできごと」が
「みんなにもある、ここでは言える、実はよくあるらしいこと」に変わってしまうことだ。

専門家が変えるのではない。仲間が変えるのだ。
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