岡本クリニック日記

岡本クリニック メンタルケア室    岡本慶子 精神科医

同世代小集団編成とサリヴァン

かんたん統合失調症教室は同世代小集団編成で実施している。
これまでの臨床経験から、統合失調症を経験した人同士の同世代(同性)同士の共感的な関係が、回復にとって大切な役割を果たすのを見てきたからだ。
それはとくに若い患者さんにはっきり表れる。

これにはサリヴァンの裏付けがある。
サリヴァンは人の発達における前青年期の同性同年輩の親友関係を重視し、自分の病棟を前青年期社会の雰囲気になぞらえて運営し、それが統合失調症の回復のために必要な経験を患者さんに提供できると考えていた。そして、看護者は予後のよい初期統合失調症を経験した人が適任だと考えていた。(下記文献)

私の臨床経験に照らして、これは納得できる。
同病を経験した同世代(同性)の交流には、統合失調症の回復を助ける力がある。

もう一つ、サリヴァンの慧眼に驚くのは「オープンダイアローグ」に関することだ。
これは次頁に。

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(文献)
Sullivan,H.S.:Conceptions of Modern Psychiatry.W.W.Norton and Company Inc.,New York,1953.(中井久夫,山口隆監訳:現代精神医学の概念.みすず書房,東京,1976.

訳者(中井・山口)によるあとがきが分かりやすい。






「ときどき妄想対処講座」テキスト公開

回復期に入っても、ときどき現れる被害関係念慮に苦しむ人は多い。
これまでいろいろな方法を取り入れてきたけれど、
今年は新たに4回シリーズの「ときどき妄想対処講座」を実施。
そのテキストをホームページに公開した。

テキストづくりに当たって重視したことは二つ。
一つは、当事者の経験を中心に据え、体験を共有できるようにすること。
もう一つは、先人が積み上げた精神病理学の成果を治療に生かすこと。

昨今輸入されている統合失調症の認知行動療法のマニュアル類はとても参考になるけれど、
臨床に照らして違和感を覚えることも多い。

今回テキストを書きながらその違和感を埋めるのに、
昔のドイツの精神科医コンラートの著作(中井久夫ら訳)にずいぶん助けられた。
 

自分のせいか、他人のせいか

日々、患者さんたちの言葉をきく。
そこから見えてくる、症状や苦しみのありようと、
統合失調症の認知行動療法の既存のマニュアルとのギャップにとまどうことがある。
とりわけ「妄想をもつ人は、よくない出来事を他の人のせいにする傾向がある」という、よくある表記。

見る角度によってはそうなのかもしれない。
しかし私が患者さんからよく聞くのは、こうである。
「何でも自分に原因があると思っていた」。それが実感だろう。

それで思い出されるのが、コンラートの「アポフェニー」だ。
直証的にことがらが「私」に関係しているという意識のあり方。

既存のマニュアルによって集団治療をうける人達の中には、
私と同じような違和感をもって、
そして私と同じようにそれをなかなか言葉にできない人がいるのではないだろうか。

折々のことば 家族だから理解できる感情

朝刊を開くと、恩師 故小澤勲先生の言葉が目に飛び込んできた。 

「痴呆を病む人たちは、一つ一つのエピソードは記憶に残っていないらしいのに、そのエピソードにまつわる感情は蓄積されていく 小澤勲」
 (
2016.4.14 朝日新聞朝刊 折々のことば 鷲田清一

鷲田はこう続ける。「だから、多数の事例から「わけ」を知る医師より、長くそばで生きてきた人のほうがその感情を深く理解できることもある」。

 

家族のほうが、専門職よりも深く理解できる感情がある。統合失調症でも同じだ。

精神科の専門職は、症状をも「性格」とみなして患者に否定的な気持ちを抱く家族としばしば出会い、「素人だから症状のことが分からないのだ。だから性格だと間違えてしまうのだ」と考える。
 そして一生懸命家族教育をしたりする。

 専門家だから、症状と性格を腑分けして見せる技術は必要だ。それで家族が楽になる部分も大きいから、そのこと自体は間違いではない。
 しかしどこかに専門職特有の「上から目線」が潜んでいたりする。

 

 私はこう思う。

家族は症状の知識がないから「性格」と見なすだけではない。
 本人の性格を知り尽くしているから、症状と渾然一体となって現れる「性格由来のもの」を感知してしまうのだ。それゆえ「症状だから」と流すことができないのだ。

その背景には、家族しか知らない痛みを伴う歴史がある。

地域生活支援センターのお話

クリニックでは、支援機関見学会や、関係者に来てもらっての講座を定期的に行っている。

昨日は講座「地域生活支援センターで相談できること」を開催。
講師には、京都市東部障害者地域生活支援センター「からしだねセンター」の相談員さんをお迎えした。
具体的な支援の実際を聞いて、とても参考になった。

今は家族と同居していて、福祉サービスに差し迫ったニーズのないメンバーでも
「いつか家族がいなくなったらどうなるんだろう」と不安を抱えている。
経済は、住まいは、身の周りのことは、精神的にも大丈夫だろうか・・・と。

いろいろな支援があるんだ。と知ることで、安心する人は多い。











 

認知機能リハビリテーション JーCORES

認知機能リハビリテーション J-CORES 終盤となった。
昨年度のNEARにつづいて、2期目の認知リハである。

認知リハといえばパソコンに向かって黙々と脳トレする暗いイメージをもつ人がいるかもしれない。
実際は逆で、(合う合わないはあるけれど)、続けるうちに笑顔が増えるメンバーが多い。

週2回定期的に数か月通ってこれた自信や
数人の決まった顔ぶれで親しくなる楽しさもある。

加えてこのプログラムで一番大切なのは
「こうしたら覚えやすい」「話の要点はこう押さえる」「こうして段取りを考えた」など
コツを身につけて自信を回復することだ。

パソコンだけでなく、話し合いの時間がある。
日常生活でコツを使った話から、
メンバーの知恵がいっぱいでてくる。

またおいおい紹介してゆきたい。

(認知機能リハビリテーションはかんたん統合失調症教室(年間登録)の追加講座として実施しています。対象は教室メンバーです)





 

松本雅彦先生のご逝去に

恩師・松本雅彦先生が昨年夏、ご逝去された。

昨秋のこと。
待ち合わせの時間つぶしに立ち寄った小さな書店の一角に
遺作となった「日本の精神医学この五〇年」(みすず書房)があった。
ご逝去後の出版である。

精神医学の専門書が置いてあること自体、意外に思える規模の書店。
先生はマスコミに売名する方ではなかったから、世間に売れる本ではない。
それがこちらを見るように、正面を向けて陳列されていた。

昔から論文を書かない私に、繰り返し書くようにと促してくださった。
最近は私に黙って、出版社に当院の資料をわざわざ送っておられた。

控えめなのに実は教育熱心な先生が、気まぐれに降りてきて下さった気がした。

松本雅彦先生のご著書から
心は心でしか分からない



















 
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